リツエアクベバ

satomies’s diary

話しかけるとかきょうだいとか

ダウン症の赤ちゃんのママと話すボラを長く続けている。世の中では出生前診断の話や中絶率の話が賑やかだが、それでもやっぱりダウン症の赤ちゃんは生まれてくる。時々思う。生まれてくる赤ちゃんが生まれてきたくて生まれてこられる道を選んで生まれてきてるのかもしれない。
産院を選ぶときに、家から近いとか実家に近いとかそういうことに加えて、母子同室だとか夫立ち会いができるかどうかだとか母乳主義だとか、まあそんな選択基準はある。そんな選択基準に加えて「出生前診断絶対、遺伝カウンセリング重要」と、握りこぶしで突き進んでいる人はどれくらいいるかといえば、まあそんなにはいないんじゃないかと思う。主義主張イデオロギーや倫理観、そんなたいそうなことを持ちださなくても、生まれるときは生まれるし、的な感覚の産院はけっこう多いように思う。そしてそうやって、胎児は上手に母体にそういう産院を選ばせて、生まれてきたよとやってくるように思う。
生まれてきた赤ちゃんがダウン症だった。このときに。母親にとって一人目の赤ちゃんか二人目以降の赤ちゃんか、で、いろいろ違いがある。一人目の赤ちゃんの時に、困ったもんだと思うことは、たいがい医者とか看護師とか周囲の人が言ってくる次の言葉がわからない。
「普通に育ててください」
普通ってなに?普通なんて知らん、こっちはマジ初心者だ。いやホント、これはけっこう困るのよ。普通の赤ちゃんはそれなりに、初心者新米ママに対してなんだかんだ反応してうまく誘導してくれる力がある。ダウン症の赤ちゃんはそこそこ個人差はあるとはいえ、生まれて二ヶ月かそこらくらいなんてぼーーーっとしてる。泣き声も小さいし、夜の授乳なんて泣いて母親起こすどころか、ほっときゃぼーっとしてるか眠り続けるかでこっちがなんとかしなきゃ朝が来てしまう。自ずと授乳量は少なくなり、ヤバい。なんてことは珍しくない。夜でさえそうなんだから、昼間なんて母親誘導してくれることもなく、もうどうしていいかわからない。ダウン症ダウン症だこの子はダウン症なんだ…。
まあつらいのはこの時期ですね。そのうちむっくりとどの子も自我を見せ始める。このスタートが遅いのがダウン症育児の最初の試練。「うちの子離乳が進まない」なんて時期には個性をキラキラさせていて、あの停滞の時期を塗り替えていく生活は始まっていく。かわいいよ、ホントかわいいよ、ダウン症の赤ん坊は。
この停滞期にもうひとつ、一人目赤ちゃんを抱いたママがもらって困っちゃう言葉がある。
「たくさん話しかけてください」
ねえちぃちゃん、ぼーーー。あのさ、ちぃちゃん、ぼーーーー。…はあ、ぼーーーーーーー。ここでタフな精神力を持ち続けられる人ってエラいと思う。わたしはとっとと開き直った。なんかこれ、花に「きれいに咲いてね」「まあ咲いたわ、ぱちぱち」とかっていう気味の悪いオバハンがやってることみたいだ。悪い、おりるわ、こっぱずかしくてやってられん。まあそのうちばんばん反応し始めたので、そこそこラクにはなりましたが。あの停滞期の呪文のような会話はやっぱりキツいと思う。息子生んでわかったけど、普通の赤ん坊ってくだらん話しかけでもそこそこちゃんと反応するのね、やっぱ違ったね。あと、普通の赤ん坊にそれ経験させてもらってる母親は、二番目三番目にダウン症の赤ちゃん来た場合、ふつうにこの話しかけってやってるよね、すごいなと思う。要するに、経験値の違いで超えられるかどうか変わる壁かもとも思う。
なんてことがありましてね、わたしの歴史の中には。そして、そんな風にわかったわかったと思うことが、誰かの役にたつこともある。なんですがね。
わたくし、変わりましたのよ、びっくり。あの、あれですよ、あれ。

花に「きれいに咲いてね」「まあ咲いたわ、ぱちぱち」とかっていう気味の悪いオバハンがやってることみたいだ。悪い、おりるわ、こっぱずかしくてやってられん。

これ、やってんのよ、今、わたしが。咲いた花に「きれいだよ」とか言うのよ、マジキモいですわね。誰も聞いてないからかまわんけどね。
まあ、娘も息子も成人して、わたしも立派にキモいオバハンですわね。そんな時代になった今、ちょっと驚いたことがありました。息子の同級生の子のママで、ひょんなことから最近ちょこちょこ話す仲の人がいるんですが。会話してたらね、言われたんですよ。
「ひらがなでね、『きょうだい』って書くの、障害児者のきょうだいのこと。それでその人たちが自分の問題を考えたり仲間と集まったりするんですって。『きょうだい』で検索してみて」
いや。もう、なんと返しましょうか。まずは「ありがとう」ですな。そして彼女が説明してくれた中の、理解が薄い点と微妙に誤解してる点を説明したりもしたんですが。
でもさ、なんか感動した。きょうだいという当事者カードの存在が、そこそこ認知度上がってるんだなあって。時代は動いているんですね。