リツエアクベバ

satomies’s diary

髪を切る

 美容院に娘を連れていった。肩より長いまっすぐの全部同じ長さで揃えた髪の毛を、シャギーをきかせたカットのスタイルに変えた。けっこうなイメチェンで鏡に向かってあっち向いたりこっち向いたり髪の毛をかきあげたりして、まんざらでもない娘。
 美容院にカットに連れていったのは二度目。一度目は小学生のとき。「いや」「ばか」「やめて」と抵抗して結局切れなかった。抵抗する子をカットするのは危ない。今日、初めて、まともに美容院で髪を切った。誰が初めて美容院で髪を切る人だろうというくらい落ち着いてた。うれしくてカット台に座る娘の姿を思わず携帯で写真に撮った。
 ずっとわたしが娘の髪の毛を切ってた。初めて人に切らせた。ぞくぞくとわき上がる喜びみたいなもの。美容院は近所の、息子のカットをいつもお願いしてるとこ。ここ数年、そうやって弟がカットしてもらうのを見てきたことが、今日の落ち着きにつながってるんだろう。
 髪の毛を切ったのは。伸びたから、ってことではなく直接の要因は来週の宿泊学習。宿泊学習の前はいつもちょっと緊張する。「髪の毛切ってもらえますか」って先生に言われるんじゃないか。長い髪の毛で宿泊に出して迷惑だと思われてるんじゃないか、なんてこと。
 学校に入ってから、宿泊学習というものを経験するようになってから、「切ってください」と直接言われたことは一度もないけれど、「宿泊の前にちょっと短くしますから」とこちらから言うと、やはり一様にほっとした顔をされるのが実際のとこ。そんなに大騒ぎするほど長いわけじゃないんだけど、結局のとこ、所詮自分じゃどうにもできない長さ、ってことなんだろうと思う。自分じゃとかせないし結べないし洗髪にも介助がいる。
 ずっと前。府中療育センターの歴史を知ったときに(そうなのか…)とすごく思ったこと。

 「東京都府中療育センターは、六八年四月、「東洋一」──国立身障センターの設立時にもやはりこの言葉が飾られた──といわれる「超近代的」な医療施設として開設された。
 その管理体制に対して在所生から批判の声があがった。彼らが耐え難いと感じたのは例えば次のような事々である。

  • ついたてのようなしきりがあるだけの男女各一部屋ずつの大部屋に収容され、起床は朝六時(五時一五分に電灯がつけられる)
  • 消灯は夜九時。
  • トイレの時間も決まっていて、後にはトイレに行く(連れて行く)手間を省くために朝は全員に便器があてがわれる。
  • 面会は月に一度。外出・外泊は許可制で、回数が制限されていた。
  • 持物、飲食物は規制され、終日パジャマを着せられた。
  • 洗うのにじゃまだから髪は伸ばせない。
  • 男性職員による女性の入浴介助が行われていた。
  • 施設開設の当初には、入所時に、死亡した場合の解剖承諾書を書くことが条件となっていた。

府中療育センター闘争関連の新聞・雑誌記事

 この中で刺激的なことは多かったけど「人の支援が生活に必要な障害がある人間は、自分の好きな長さに髪の毛を伸ばせない」ということも「耐え難いこと」としてあげられていたことに(そうか…)と思った。自分で扱いきれない長さにする権利は無いと言い渡されるようなこと。この運動に関わった人のこの箇所にこだわる文章を読んだとき、(そうか…)と思った。
 思ったのに。思ったんだけど。でも。毎度毎度宿泊学習の度に、実はドキドキする自分。先生に「宿泊学習の前に髪の毛を少し切ってください」って言われるんじゃないかと。そこに直面したくなくて「少し切って出しますから」ってことをわたしは言ってきたのかもしれない。このくらいは切って出しますから、お願いどうぞよろしくお願いします、って感じの気持ちだったかもしれない。宿泊前夜はいつも丁寧にトリートメントをしてやる。「権利」って言葉はあるんだろうけど、でもドキドキするんだもの。
 今回はどうしようかなと思ってたんだけど。でも宿泊だからってことからちょいと飛んで、美容院で切るチャレンジにしてみようかと。もうすぐ16だ、もういけるだろうってのもあった。まっすぐな髪の毛を上部で少しすくって二つに結ぶ髪型も、かわいいけどいい加減ガキっぽいよね、ってのもあった。ちょっと「カットしました」って感じも経験させたいけど、そこまで落ち着いて切らせてくれるんだろうか、なんて堂々巡り。
 ちょっと前に、わたしは髪の毛のすそを8センチほど切った。それでも背中半分くらいの長さはあるんだけど。そのときに美容院で娘をわたしの膝にのせて、娘の髪の毛の毛先の方を、娘に「切ってる」とわからないような状態で切ってもらったんだけど。すごく配慮して切ってもらったし、ちゃんとカットしたわけじゃないからってことだったんだけど、それでもやっぱりいくらか払わせてよって何度も言ったんだけど。料金は取ってもらえなかった。そのとき(これでいけたから次回はいけるかも…)って思ったのがすごく強みにはなったと思う。
 今回。電話じゃなくて直接出向いて予約を取る。電話でではなく相手の顔見て頼みたかった。「あのさ、ちぃちゃんの髪の毛切ってほしいんだけど」。小学生のときに結局切らせてくれず、大騒ぎの抵抗だったことは少しも言わずに、「いいですよ〜、どのくらい切る?」。そのリアクションにほっとしながら、えっとカット台に座らせてみてそのときのあの子の状態で決めると答える。
 今日、ドキドキしてたんだ〜。「さあちぃちゃんおいで〜」って言われて、当たり前のようにカット台に座り当たり前のようにケープ等巻かれていく娘に正直驚く。シャンプーではなく髪の毛を濡らしてもらって、「さあどうしようか」って。「どのくらいの長さまで切るの?」って。
 うん落ち着いてるから思い切ってデザインきかせたカットにして欲しい、本人長いの好きだから長いって印象を残して欲しい、でもって宿泊で先生にイヤがられないように扱いやすいようにシャギー入れて軽くして欲しい。前髪は様子見て落ち着いて切らせてるようだったら、少しハサミ入れて欲しい。
 うろうろうろうろと、結局落ち着きがなかったのは娘じゃなくてわたし。勝手に椅子もってきて側にぺたりと座って。で、切ってくれてる美容師さんとしてた話の話題は地域情報なんてこと。30代のとーちゃんで彼のニョーボと子どもたちはご近所仲間だったりするからね。地域行事や近所の住宅街とかですれちがうときに「やあちぃちゃん」「ちぃちゃんこんにちは」とマメに声かけ続けてくれたことも、やっぱり影響してるんだろう。
 とにかくさ、なんか、うれしいんだ、今日。ちぃちゃん、そのカットかわいいよ。鏡のぞいてる姿もかわいいよ。

長い道のり/fuuuuuuunの日記

 あのねfuuuuuuunさん。fuuuuuuunさんとこの「りんご」より些細なことかもしれないんだけど。でもさ、わたしの生活の中にも「りんご」あるんだ〜。