リツエアクベバ

satomies’s diary

封筒

神奈川県の公立の高校入試には、学区制度が無い。県内のどこの学校も志望校にできる。前期入試と後期入試の募集率に関しても、その高校が独自で決めることができる。中学三年間に関しての調査書や面接、学力試験等といった選抜に関しての要素の配分も学校によって違う。基本的にどこの学校も志望校とすることができて、学校によって違うところがかなりある。調べることはいろいろで、中三の夏は忙しい。
合否の発表は、発表の日に志願した学校に行って受験票を見せて一通の封筒を開いてわかる。この封筒、高校生の子のかーちゃんに聞いたところ、「薄いか厚いかで、中身を見る前に合否がわかる」ってな話だった。薄ければ中身は一枚の「不合格」の通知、厚ければ「その後の書類が入った封筒」ってな話だった。
でも。息子が受験した高校は違ってた。これも高校によって違うんだな、と思った。薄いも厚いもなく、その封筒に入った紙は合否を通知した紙のみ。その中身が「合格」と書かれていた場合、受付にその後の書類をもらいに行くんだそうだ。
前期入試の志願は希望者のみで、息子の中学では前期入試を受験する生徒が元々少ない。この学校の前期入試を受験したのは、息子の中学では息子一人。一人で志願に行って、一人で受験に行って、一人で通知をもらいに行く。そして、一人でその封筒を開き、一人でその結果を受け入れる。すごい怖がってますねえ、怖がってる。怖いね。でも、とても大きな経験だと思う。
受験した月曜から、一週間が長いと繰り返す。長いね、長いよ、やっと木曜だ。
前期入試の倍率は後期入試より高い。二人で予想していた倍率よりも低かったことに安堵したのも束の間、周囲からの「倍率、高いよねえ」という言葉に心理が落ちた。実際、県内の高校の中では倍率は高い方に位置する。志願者は多い。わたし自身もいろんな人に「倍率、高かったねえ」と言われて、やっぱり心理がぐらぐらと揺れた。
前期入試の評価の観点と、調査書と面接の評価点の割合は、学校によって違う。今回受験した学校は面接の内容の評価点の割合が高い。面接の時間も長く、設問もかなり突っ込んだ内容を突いてくる。学校が発表した評価の観点を研究し尽くした事前対策を本人は完全にものにし、本人の今の力においての100%の結果にはなったと思う。だからこその不安が、本人に大きくのしかかっているらしい。ここまでやっても届かなければ、後期入試も自分には無理だと思ってしまうと言う。
彼の今の一番の救いは「姉」の存在。「姉」は受験を理解してない。部活部活で帰宅が遅かった「弟」の帰宅が早い。ここのところ、遊んでくれる時間も長い。二人して、きゃっきゃきゃっきゃきゃっきゃきゃっきゃ、うるさくてしょうがない。娘は何を感じているのか、息子が焦燥感に駆り立てられるように勉強するときは手を出さない。息子が娘にちょっかい出し始めた途端に、このきゃっきゃきゃっきゃきゃっきゃきゃっきゃタイムが開始。ははははは、うるせー。
「手が届かずにさらに挑戦する」という試練を経験してもいいとは思うのだけれど、多分なんとかなってるんじゃないかなあ、とも思う。息子がすっかり心を奪われている「不合格者の人数」の数値を、わたしはいつまでたっても正確に覚えられない。つーか、これで手が届かなければ相手が手強すぎるとわたしも思う。本人の恐怖はいかばかりかとは思うけれど、こればっかりは本人一人の勝負なのでどうしようもない。
いろんなことを考えていながらも、場面に合わせてすっとこどっこいな態度を見せる担任が、「ドラクエの発売だ、オマエは受験中だからできないだろ、今度こそ勝ってやる」と言ったそうな。「受験が終わったら、絶対追い上げて絶対勝ってやる」と返したそうだ。アホかいな、コイツら。すっげーおかしいけど、実は担任に「サンキュ」と思う。「アホじゃねーか、アイツ。アホじゃねーか、アイツ」と笑うわたしを、息子が必死にかばう。わはは。全部終わったら、そこに流れる「人の優しさ」というものをゆっくり教えてやろう。
「封筒」を手にするまで、あと4日。塾の予定が無い今日が、多分一番長い。今日の夕刻から夜は、録画しまくったテレビでも見て、あははあははと笑って過ごすかな。