リツエアクベバ

satomies’s diary

合否発表の日

ぐぐぐわ、なんか緊張でゲロ吐きそう。ってな感じだったのが発表時刻一時間前くらい。結果が受け入れ難いものだったならば、待ってる日々の方がしあわせだったかもしれん、とか思いながら。
10時過ぎに携帯が鳴った。息子がかけてると画面に表示される。一度深呼吸してから出る。「受かったよ!」。それを聞いた途端の母の第一声は「っしゃ!っしゃ!っしゃ!」。右手でげんこつ握って、演歌歌手のような振りの動きを三連発。考え無しに出てくる行動って怖い。
合否の報告に中学へ戻る。駅で車で拾う約束をして電話を切る。前期の時にそういう約束をしてたんだよね、受かってたらそうしようって。中学に報告に行って、それから昼飯を食いに行ってそれから塾に行こうって。やり直しだね。
夫に電話を入れる、受かってたって。それから実家に電話を入れる。受かったよって。言いながら(ホントかな)とか思う。息子が帰ってきて「なんてな」とか言われたらどうしよう、とか、ちらっと思う。そんなバカな、そんなセンスはアイツにはねーさ。
時計を見て、拾いに行くまでの時間を計算して。そうだと思ってパソコン開く。はてなの編集画面の「お絵かき」ってボタンを初めて使った。これしか考えられなかった。マウスを動かす手が震えて、何度も描き直した。ばんと保存ボタンを押したら画像がでかくて驚いた。驚いたけど、まあいいやと思った。それから迎えに行った。
車を見つけて息子が走ってくる。ばたんとドアを開けて乗り込んでくる。顔を見る。おめでとう。ねえねえねえねえ、早く見せて見せて、合格って書いてある文字の文書をさ。
格通知が入ってる封筒をカバンから出そうとしたときに、カバンの中に分厚い封筒が見えた。これか、前期の時に見られなかったあの「入学手続きの書類が入ってる分厚い封筒」ってのは。そうか、今度はこれがもらえたんだな、って。やっとこれがもらえるところにたどりつけたんだな、この子は、って思った。
息子が見覚えのある封筒を出す。コレだ、コレ。前期はこの中に「不合格」って書かれた紙と後期の志願書が入ってたんだった。今度は? 合格って書いてあった。「なんてな」とかは書いてなかった。よかった。
「封筒を開くときに重力が横から来た」って言った。胸の上に横から重しがどんと来るような感じだったそうだ。すごい緊張した、と。
中学の近くに行って「近くで待ってようか?」って聞いた。「いや、来てもいいよ」って言うのでついていった。合格を聞く担任の顔が見たかった。
担任のとこに行く途中で、部活の顧問の先生に会った。息子が「合格しました」って言うと、顧問の先生が満面の笑顔で右手を差し出した。がしって握手して祝ってくれた。いきなり右手を差し出されたから、通知の入った封筒を出せって言ってるのかと坊やは勘違いしたんだってさ。こんながしっと握手の祝福ってのも、この子にとっては初めての体験なんだなと思った。
担任が待っている教室の戸のところで、わざとらしく隠れて顔だけ出しながら、にこって笑って中にいる担任に小さく手を振った。担任がばたんと音を立てて椅子から立ち上がった。息子が教室へ入っていく。「合格しました」。担任が右手を差し出した、今度は息子はもう迷わない、がしっと握手して祝福してもらった。
その様子を見届けながら、うふふと教室に入っていく。担任がすごい勢いで喜んでた。「これだけずっとずっと、堅く志望していた志望校に合格する。すごいですよ、すごい、よくやった」と。それからわたしに力強く言った「入学手続き、忘れないでくださいね!」。げ、そうくるか。
中学を出て、車に乗って、さて、と。とにかく早く入学金を払いに行ってしまおう。金を払って早く合格を固めなくちゃ、と、なんかバカなことを言ってた。もう事実は逃げてはいかないよね。それから昼飯を食いに行こう。
銀行に行く。あの日、前期で不合格を聞いたときも、その数時間後にはこの銀行にいた。併願私学の受験料と後期試験の受験料を払うために。今日は入学金だ。ここでも仕切直し。そのひとつひとつがうれしい。単なる仕切直しじゃない、この子があの挫折から拾い出したものもでかかったし、そして本人の言葉通りに「勝った」んだ。
銀行を出て、さあ昼飯食いに行こうか、腹減ったね。でも、何を食べていいのかわからない。アンタ何食べたいの? わからない。なんかどこか現実感が無いんだ。なんかぼーっとしてしまうね。受かったら泣くかなって言ってたけど、ぐっと泣くってより、なんかふわふわしてしまうって感じ。これ、現実?なんだよね、って、そんな感じ。
そうだ、あそこに行こうかと、とりあえず一番近くのファミレスを目指す。移動しながら、ぼそっぼそっと、これまでのいろんなシーンを交互に口にする。ここまで来たんだね、ホントにここまで来たんだね。
「さーて、これから忙しくなるぞー」って、息子がうれしそうに言う。そうだ、ここの学校に入学したら、これもやりたいあれもやりたいってこの子は言ってた。前期の面接でとうとうと話したことのひとつひとつ。不合格だったらあきらめなきゃならないと思っていたことのひとつひとつ。それを再度の挑戦で手にして、うれしくてたまらないみたいだった。
家で分厚い封筒を開く。制服作らなきゃね、入学手続き行かなきゃね、やだ、こんなにたくさんなんだか書かなくちゃいけない書類があるんじゃないか、わーわー。何がなんだかよくわからない。
夜になって、やっと落ち着いてきて、分厚い封筒の中身を整理していった。そこに息子が「これもいっしょにしといて」と、合格通知の入った封筒を差し出す。ああ、一緒にしておこうねと、中の書類を取り出したら「不合格」って書いてあった。
え? 何?コレ!
前期の時の不合格通知だったぜ。こんな簡単なネタに引っかかってバカみたいだ。むきっと睨むと息子がしあわせそうに笑ってたよ。明日になったら、きっともっと当たり前の現実だ。