リツエアクベバ

satomies’s diary

フレッシャーズ

エスカレーターに乗ってた。目の前にスーツの男の人がいた。このスーツの男の人、ワンショルダーのバッグをしょっていて。そのワンショルダーのバッグがデニムと合皮のパッチワークのようなデザインだった。

上に進むエスカレーターで、なんとなく前の男の人の背中をそうやって見ていた。バッグはいい感じのデザインだった。いい感じの色合い、いい感じの、でもスーツだよね。お昼近くの時間帯にこんなビジネスとは言い難いようなバッグしょって、どんな仕事なんだろう。就活バッグとかどうしたんだろう。

と、ぽかんと思ってた。思いながらぽかんと見てた。あれ?

お尻のポケットに白い糸でバッテン入ってる。片方のバッテンはほどけていて、もう片方のバッテンはきっちりバッテン、白い糸で。

(あ。これ。しつけ糸だ。おろしたて?のスーツなのか?)

エスカレーターが次のフロアについたとこで、おばはん、にいちゃんに声をかける。
「すみません」。
「はい?」

「あの…、お尻…」

いや、難しいわな。なんつーかな。

「ごめん、ちょっと、こっちの隅に来てくれるかな?」

にいちゃん、誘導。
「お尻のね、ポケット。しつけ糸がついてる。右はとれかかってるけど左はばっちり縫い付けてある。取ったほうがいいと思う」

顔を見ないで一気に言った。にいちゃん、すまん。恥をかかせたいわけではない。むしろ恥をかかせたくない。

にいちゃん「はい」、と答えた。素直な言い方で「はい」、と答えた。かわいいな、ごめんね。おばはん一気に言い終えてすぐ去った。ごめん。

おばはん、にいちゃんのケツとバッグしか覚えてない。もしかしたら大学生なのか?でも入学式はもう終わってるしな。どちらにしても親元は離れたにいちゃんだと思う。かーちゃんはふつう、息子をあのケツじゃ外に出さないね。

どこぞのかーちゃん、お宅のにーちゃんのケツの恥は横浜の端のおばはんがなんとかしたよ。親元離しても心配しないで。世の中はそうやってどうにか動いてるよ。
あのにいちゃんは、見えないとこをきちんと確認するようになるよ、きっとね。もうおばはんに声かけられたりしないようにね、きっとね。