リツエアクベバ

satomies’s diary

セイちゃんのこと

小学生の時のこと。不可解な思い出。謎。あの日のあの時のあのことの意味、を、わたしは知りたかった。
あれは5年生か6年生の時だったと思う。5年生の二学期あたりでスズキくんが転校した。この思い出の中にスズキくんがいないから、たぶんそのあとなんだと思う。それはある日突然始まって、毎日毎日続いた。最初は黙って我慢した。黙って我慢してから、やめて欲しいと懇願した。それからあとは、毎日毎日毎日毎日大声でキレてた。キレて叫んで抗議して、それから思いっきり力を込めて、ヒステリックに仕返しをした。それでも毎日毎日毎日毎日、同じことが続いた。疲れ切ったころ、ある日突然終わった。なぜ終わったんだろうと思ったら、ターゲットが別の女の子に変わってた。そういう出来事。
セイちゃん。男の子。ちょっと変わった子。成績はすごくいいんだそうだ。ただ周囲の男の子と話したり遊んだりしているシーンの記憶が全く無い。集団の風景の写真の中に、なんとなくいない子。みたいな男の子。家も遠くて、高学年でクラスが一緒になるまで接点は全く無かった。よく知らない。特になにかを誰かから聞いたということも無い。まっさらな状態で新しいクラスメート。
セイちゃんが近寄ってくる。わたしのそばを通り過ぎる。そのときに、思いっきり足を踏む。足の裏全体で足の甲を思いっきり踏みつけて、ぐりっと踏みにじるように足を動かす。ものすごく痛い。涙ぐみそうになるほど痛い。驚いて顔を見ると、笑ってる。にたにたと、笑う。そして後は無視される。やめて欲しいと懇願しても終わらない。突然近づいてきてぎゅうっと踏む、踏みしめてくる。にたにたと笑いながら。
担任は評判の悪いおばさん。もともと頼りにもならない大人。にやにやしながら言う。「セイちゃんはあなたのことが好きなんだからしょうがないわよ」。しょうがなくない。痛い、泣きたい。「セイちゃんはあなたのことが好きなんだからしょうがないわよ」と大人が言うと、子どもは「好きなんだから」とみんな言う。知らないそんなの。わたしは足が痛い。味方なんて誰もいない。
「やめてよ!なにすんのよ!ふざけんな!」とか、もう歯止めがきかないくらい怒鳴ってた。怒鳴って怒鳴って、セイちゃんの足をがんがんがんがん踏みつけて踏みしめて。セイちゃんはちらっとわたしを見て、なんでもない顔をしてた。そして彼はやめなかった。隙さえあれば、彼はわたしに近づいてきた。ぎゅうって足を踏むために。そして笑う。にたにたと笑う。
ヤマダさんにターゲットが移ったとき、わたしは心底ほっとした。そして少ししたら毎日毎日ヤマダさんの叫び声が響くようになった。「やめてよ!なにすんのよ!」。そしてヤマダさんもわたしと同じように、思いっきり彼の足を踏みまくってた。そして先生は「セイちゃんはあなたのことが好きなんだからしょうがないわよ」とにやにやしながら言った。わたしはヤマダさんがどんなにつらいかよくわかってた。でもじっとしてた。助けなかった。もう一度ターゲットにされるのが耐えられなかったから。
さて。わたしが知りたいこと。あの男の子のあの行動は、あの人が成長していく中でもつ「性癖」に関係しているのではないだろうかと思うようになった。彼はどんな風な立派な変態になったのだろうかという興味がむくむく湧くようになった。彼がターゲットにしたわたしとヤマダさんの共通点は「学級委員になるような女の子で、気の強い子」。ぎゃんぎゃんと叫んで怒りをこめてがんがん踏み返して仕返しをした。ということは、Mなのか?でもあのハードな踏みしめ方はなんなんだ?どういうことなんだろう。
昨日、小学校の同級生の同窓会があった。ねえ聞いて?どう思う?彼はどんな風な変態になったのかな。当時の教室にいた元男の子たちに聞いた。わたしは私学の中学に行った。彼のその後は全く知らない。男の子たちはちょっと顔を見合わせて、言っちゃっていいのかなと相談した。そしてわたしに言った。「あいつね、40代くらいの時にね」。自死だそうだ。それから言った。「好きだったんだと思うよ」って。
違うの、そうじゃないの。あの行動の意味が知りたいの、わたしは。なんでああいう行動になったんだろう。なんでにたにたしてたんだろう。「気を惹きたかったんじゃないかな」。違う違う違う。なんでそれがああいう行動になるのか。その「普通じゃないこと」の根源がわたしは知りたかったんだ。男子たちとほとんど接点がなかったから、あいつのことはよくわからないって。小学校も中学も、誰かと関わるとか無かったと思うって。
ヤマダさんに聞いた、覚えてる?って。「なんかすごい不快なほど、なんかされたような記憶はあるけど、よく覚えてない」。にたにたにたにた、うれしそうだったんだよ、セイちゃん。にたにたしてた。うれしかったのかな。なんだったんだろう。死んじゃったんだって。くっそー。わたしは忘れないみたいだ、たぶん。合掌。