リツエアクベバ

satomies’s diary

コンビニでゲロ吐いてたの、小さい子が

あかいくるまにガキ二人を乗せて大手スーパーに。息子が明日から部活の合宿なので、細々とした買い忘れたものを買いに。
で、ふと「あそこ、左折するぞ」と。いや急にその角を曲がると「サンジャポ商品を売ってるコンビニ」があったな、と。あの変な宣伝のポテトを買って行こうぜと。
コンビニ入って、商品にべたべたと印刷された変な宣伝写真を見ながら息子ときゃーきゃー言ってて。娘もケラケラ笑ってて。そのとき、店の向こうの隅で、じゃばじゃばと液体が一気に流れる音がした。
小さい男の子が、じゃばじゃばと一気にゲロを吐いてた。慌てる母親。あの調子だとまた来るぞ、と思ったら、再度じゃーっと吐いた。
「すみません、子どもが吐いてしまいました」と母親が店の人に言う。様子をうかがいながら、店の人に言った時点でこれは出る幕ではないな、と判断しようとしてたんだけど。
「ゴム手袋じゃない? 必要なの」「モップを出さなきゃねえ」と。
そう、そうなんだけどさ。ホントにその通りなんだけど。でもって店でのゲロは困るだろ、他人のゲロはそりゃヤダろ。
でもさ。あのね、そのもたつきはかーちゃんにとっては「くる」んだってば。子どもには突然、ああいう吐き方をするときってのがあるんだってば。
もう少し大きい子が母親のそばに駆け寄る。母親がぴしっとその子に言う「こっち来ないの!」。大きい子、母親の強い調子に固まる。
おし、ほいさ。わたしは車のキーを息子に軽く投げる、息子キャッチ。息子に一言「ティッシュ!」。息子、車に走っていってキーを開け、ボックスティッシュを持って走って帰ってくる。おお、あうんの呼吸。
ボックスティッシュ。ゴム手袋だのモップだのより先に必要なもの。まずばさっと取って、吐いた子どもの顔と手と気持ちをぬぐい、そしてばさっと取って床に置き、ゲロの水分を染みこませ、そこでまずざっと片づける。それが早い。母親の前で取るべきことをどんどんやれば、母親は何をやるべきかすぐに思い出す。
もたついていた店員が、息子がティッシュを持って走ってきたのを見た途端、店からボックスティッシュを持ち出してきて、ばさばさと箱から引き抜く。そばの客に先を越されちゃ立つ瀬はないよ、という勢い。
父親がやって来て、店員からティッシュを奪うように受け取り、床に広げていく。床のゲロに染みこませたティッシュ素手で寄せていく。吐いた子どもはまだ、自分の手に流れたゲロ、そのゲロまみれの手をだらんと下げて放心状態。
母親にボックスティッシュを渡しながら「使ってね」と言う。母親はうなづいて、子どもの口と手を拭いてやる。それからお店の人に「トイレ借りられますか?」と聞く。「あちらです」というお店の人の返事に、この母親は「子どもの手を洗わせてください」と言いながら、子どもをトイレに連れて行く。父親は床をきれいに片づけた。あとは洗剤吹いてモップで拭けば終わりだろ。さてお役ご免。さあ行こう。
車に戻って、エンジンかけて走り出す。なんだかなんか泣きそうになってしまって、ぶつくさと息子を話し相手につき合わせる。
あのさ、食べ物を売ってる店の中でゲロ吐かれたら、そりゃ店は困るさ。それは当然なんだよね。でもさ、一番そう思ってたのはあのかーちゃんなんだよね。
そのときにさ、その「困った」をばばばと解決していくリズムってのがその場には必要ってことがあると思うのよ。あの、なんか引いてみるようなあのお店の人たちの視線がさ、あったよね。それでさ、なんかもたもたっと、って感じがあったよね。
それがさ、わたしは耐えられなかったの。多分さ、わたしにとってアレはわたしなんだよ。ずっとずっと前のわたしなんだよね。
娘はちょっとしたことで、小さな崩れでばばばと吐くことがよくあった。わたしは駅で、駅ビルで、店舗の中で、這いつくばって床にポケットティッシュをばらまいて、素手で汚れをかき集めてビニールに入れた。そんなことを何度もやったのを、息子も目にして育ってきた。
息子にとっては、すぐにさささと対応して、人にばたばたと頭をさげ、そしてにっこりと「さあもうだいじょうぶよ」という母だったんだけど。そうなの。そういうときはいつもそうだったの。わたしがさささと対応しなきゃ、このアクシデントから娘の気持ちも息子の気持ちも救えないと思ってたから。
でもさ、さっきのあのママも、わたしなんだ。知らない人がばさっとポケットティッシュを握らせてくれたりもした。いつの間にか作った小さなおしぼりを押しつけて消えた人もいた。振り返るともういないタイミングで、助けてくれた人たちがいた。そういう人たちがわたしをさささと対応するかーちゃんにしてくれていったんだ。
そうなんだ、アレはずっとずっと前のわたしなんだ。わたしは駆け寄る息子にああいうきつい声を出したこともあったんだろうと思った。
くくくくーっと胸に喉にくるこの何か。ああそうか。わたし、がんばってたのか。がんばってたんだなあ。
な〜んて感傷をしっかり息子につき合わせてから。
「ねえ、あのさ。ああいうときにさ、ゲロでもなんでも他のことでもいいからさ、ああいうどう考えてもアクシデントって人を目撃したらさ、逃げる人じゃなくって動ける人になって欲しいとわたしは思うんだ。ティッシュ、ありがとうね」。
助手席の息子、黙って二三度静かにうなづく。
まあうちのお嬢も、もうそんなことは無くなったけどね。でもさ、ばたばたと片づけているその横を「バッカじゃね〜の」って笑って言いながら通り過ぎた小学生もいたぜ。許せなかったのはそのガキよりも、そのガキにくすっと笑ったあの母親だ。オメーこそ、バッカじゃね〜の、って言ってやりたかったわ、こっちは忙しくてかまってられなかったけどね。