リツエアクベバ

satomies’s diary

あこがれの男の子

 娘が養護学校に入った年、わたしにとって「あこがれの男の子」がこの学校にはいらっしゃいまして。「出会い」は入学式、在校生代表としてスピーチをした高三の男の子。
 この男の子が、なんというかメガネがよく似合う、物静かな男の子なんだけど、その雰囲気みたいな感じがとても好きで。娘の自力登校の「練習」のために毎朝、学校の最寄り駅から学校までの道で、時々一緒になる。一人で歩いているときは黙々と(当たり前か)歩いているのだけれど、友だちといっしょになると快活になる(当たり前か)。でもさ、その聞き方や、聞いているときの表情とか、ちらっちらっと盗み見しながら、(ああ、かっこいいなあ)と思っていたわけで。
 入学の年は役員をやっていたので、しょっちゅう学校に行っていた。高等部の廊下付近を歩くときは、ちょっとドキドキ。(ああ、彼にすれちがえるかも)って。無表情ですれちがったりしながら、PTA室に駆けこんで「きゃー、きゃー、きゃー」とか言ってた。そのうちに、とても普通に自然な感じ(のつもり)で、「おはようございます」なんて言ってみたり、そしてPTA室に駆けこんで(以下同じ)。
 5月、初めての運動会。徒競走は小学部から高等部まで学年ごとに、障害の重い順に走り出す。先生に支えられながら、自分の足で一歩一歩と、そういう生徒の姿から始まって、学年の終わり頃にはだーっと走る子の「かけっこ」が出てくる。拍手したり声援を送ったり、で、最後高三。
 ああ、彼だわ、彼だわ。じーっと見ててもいいんだわ、そういう機会なんだから。と思ったら、「じーっと見る」どころじゃない、この彼、すさまじく速かった、ぴゅーーーーー。変な言い方だけれど「普通の高校」で部活やっていたら、多分、かなりいい線だったんじゃないか、と思った。養護学校の高等部への進学で、そうしたチャンスを彼は奪われたのではないか、と思った。
 昼休み、誰彼となく声をかける、「リレー見ようね、リレー、きっと『彼』がスターだから」。
予想通り「彼」はアンカー。ぴゅーーーーーーーーーっ。きゃーーーーーーーっ!!! 表彰式、リレー優勝の盾もらって、うれしそうだわ、笑ってるわ、なんていい顔で笑うんだろう。 
 なんで高三なんだろう、と思った、なんで高二じゃないんだろう。運動会が始まる前にわかっていたら、もっともっとベストポジションをさがして写真撮ったのに。
 卒業して彼は福祉製品を売るショップに就職した。数ヶ月前、学校でイベントがあったときに、そこからの出店があって。きゃーーー、と思ったら、やっぱり「いらして」いまして。お、お、お釣りもらっちゃった、「彼」から♪
 「彼」は、中学では部活をやっていたんだろうか、高校でも部活をやりたかったんだろうか、今はスポーツをやりたいんだろうか、やっているんだろうか。
 パラリンピックに知的障害の枠が消えたこと、たくさんの「彼」のような人たちの夢を奪ったんじゃないかと、ふと思うんだよね。
「シドニーパラリンピック・スペイン選手替え玉事件」とは?