娘が転んだ。顔を打って唇の上を切った。
通所の帰り道で、駅から出て歩いていた。わたしは道の反対側の2階の位置の通路にいた。見下ろすように、歩く娘が見えていた。
見つめていたわけでもなく、その先で合流しようと並行して歩いていた。ふと見下ろすと、娘が地面に倒れていて、起き上がるところだった。そばには高齢の男性がいた。なんだか立ち止まっているようだったが、よくわからなかった。その男性は、杖で地面を叩きながら歩いていった。娘はまた、歩き出した。
合流したら、マスクが汚れていて。その内側が血で汚れていた。涙目の娘を抱きしめた。
本人がうまく説明ができないので、推測でしかない。
高齢の男性は、視覚障害者誘導ブロックを杖でたたきながら進んでいた。おそらく、娘はその杖に足を取られて転んだ。
視覚障害者だとわかれば、そこが誘導ブロックだとわかれば、通常その方が歩きやすいようにそばを歩く人間はスペースをとるのだと思う。
おそらく娘にはそれがわからなかった。ふつうに歩き、後ろから出てきた棒に足をとられたのだろう。
その道の誘導ブロックは、道の右端でも左端でもなく、ほぼ中央にあり。バス乗り場まで続いていく。
娘にしてみれば、いつものようにいつもの道を歩いていたら、棒が出てきたみたいなことだったのだろう。
娘のつたない伝え方によると、先方は特に気づいてはいないようだった。娘は何か起きても声を出さない。基本この人は「静かに耐える」。
見えない人と、わからない人。難しい「偶然」だった。
わたしは、これまでの間、娘に何をどう教えればよかったのだろう。とにかく、あのブロックのそばを歩くな。というのがわかりやすいのかもしれない。