あのさ。白杖をカンカンカンカンしながら歩いてる人がいたの。道の点字ブロックをカンカン叩いてたんだけど。なんかうまく進めなくて、みたいな感じだったのね。
で、聞いたの。「バス停に行くんですか?」って。その先にバス停があったから。点字ブロックはバス停に向かって延びていたから。
「あ、そうです、バスです」って、小さい声でモゾモゾって言ったの。男のひと、30代くらいかなあ。わからない、そんなによく顔を見なかった。目が見えない人の目をしていたから、なんか直視せずになってしまった、みたいな。
小さい声でモゾモゾって言ったから、腕とか触って誘導するのイヤだろうなと思って。
「じゃあ、いっしょに行きましょう」って言ったの。「もう少し先です、そのまま点字ブロックで進んでください」って。
そこ、割と距離があるのよね。バス停まで。だから迷ったのかな、初めてのところなのかな。わからないけれど。とにかく「まっすぐです、もう少し先です」とか言いながら歩いた。
バス停のところまで来て。
「バス停に着いたんですけれど。ここで止まると一番前に割り込んでしまうんです。人がけっこう並んで待っています。もう少しまっすく行ってください」って言ったの。
あのさ。バス停からまだ点字ブロックは続いてるの、バス待ちの人の列に。その点字ブロックの上にいるの、人が。だから白杖がぶつかるのよ。
「まっすぐです」とか言いながら、「すみません、ちょっとよけて」って、点字ブロックの上に立っている人に言ったのね。だってさ、点字ブロック白杖でたたきながら歩いてくる人がいるのに、そのまま平然と点字ブロックの上に立ってる人ってなんなん?
「すみません、ちょっとよけて」って言った時に、怪訝そうな顔でわたしを見る人なんなん?丁重にお願いしなきゃならんことなわけ?おかしくね?
これってアレなんだろうな、と思った。かわいそうっぽくないんだろうな、ツレとして。いやわたし、別にこの方のツレじゃないんだけど。
「はい、最後尾つきました。それではー」と言ってお別れしました。お気をつけて。