今年に入ってからだと思うが、母が老いることにナーバスになった。88のあたりでは「このままスキップで90を越えるんじゃないか」と思っていたが、そんな簡単なことではないと思うようになった。
身体も元気だし、要支援でさえもない。でも、いろいろなことができなくなった。
自分の服のほとんどを自分で縫って作っていたのだが、集中力が続かなくなったと。
かなりの読書家だったのだが、読書時間が長くなるとしばらく目が痛くなってかなわないと言う。1日に数十ページしか読めないと。でも新聞は毎日とても楽しみなんだそうだ。
と、まあ、一般的な89よりはすこぶる元気だとは思う。週三回ジムに通い、パーソナルトレーナーまでつけている。
でも、明らかに「今まではなんでもなかったこと」が「なんでもないことでは無くなっていく」感がじわじわとあるらしい。
そうしたことに、必要以上に自分を卑下することが見られるようになった。
加えて今夏は、早くから暑かったのが関係しているのか、ずいぶんと痩せた。食べ物をあまり欲しいと思わず、頑張って食べるのだと言う。
ふむ。と思う。いつかくる、始まる、母の本格的な老いと向かい合うタイミングが、もう近づいてきてるんだなと。
そんなところで、エリザベス女王の逝去だ。
あんなに美しく、また堂々と活躍されていた90代が突然亡くなられたら。どんなふうにナーバスに受け取るのだろうかと思った。
電話で話してみたら、全然だった。ジム仲間の年寄りに、パーソナルトレーナーのことを聞かれて。あなたみたいに若々しくいられるのは、やっぱりトレーナーつけたからかしらと言われたと。もうごきげんになっていて、エリザベス女王の逝去はなんにも響いてなかった。
なるほどと。おかあさん、アレですよ。これはいわば「老齢思春期」だ。
体の急激な変化の中で、こころが感じやすくなる。特に自意識がゆらゆらする。そういうことなんだな。隠なときもあれば、陽にもなる。
わたしは、行く道としてよいお勉強になりましたわ。覚えておくよ、と母に言う。
あたし夏マケしていたみたい。秋っぽくなってきたらご飯食べられるし、ちゃんとビールが美味しいからだいじょうぶよ。
ここのところ、ビールがまずくてどうしようかと思ったけれど。なんかだいじょうぶみたい、ビール美味しい!
とか言ってたので、今回はとりあえず安心かも。