リツエアクベバ

satomies’s diary

嫌な時代だ

今日、娘を連れて歯医者に行った。

待合室の左前方に、トイレがあった。洗面所があり、その奥に個室という構造で。洗面所で手を洗う人の後ろ姿が、待合室から視界に入る。

70代くらいのご婦人が出てきて、洗面所で手を洗った。その後ろ姿を見て、わたしはきゃっと思って駆け寄った。駆け寄って、ご婦人の後ろ姿に自分の体が重なって、ご婦人の後ろ姿が待合室に見えないように盾になった。

そして至近距離で小さな声で言った。
「スカート、後ろ、まくれあがっています」。

きゃっ!と小さく叫んで、ご婦人は後ろに手をやり。またきゃっ!と叫んでスカートを直した。

そしてわたしに礼を言い、腰にコルセットを巻いていてどうのこうのと話し、恥ずかしいありがとうと繰り返した。

その間、わたしより小柄なこのご婦人は、ずっとわたしの腕にしがみつくように話していたんだ、両手で。半袖でむきだしの腕に、直に。
わかる、その動作はわかる。感謝と親しみにあふれていた。

しかし。わたしは。知らない人に手で触られている、両手で。と、笑顔の裏で思っていた。なんでもない顔をしながら。
ご婦人に見えないタイミングで、そっと腕にアルコールをかけた。

嫌な時代だ。