リツエアクベバ

satomies’s diary

よろしくお願いします

義姉に、手紙を書こうかなあと昨日今日と迷っている。人間関係においてこうした置き去りにしたような気持ちの存在は、よくあることだと思う。だからそのままにしていいのか。伝えた方が伝わるのだろうか、いや伝わるのだろうか。

葬儀の日に、義姉がわたしに「よろしくお願いします」と頭を下げた。

はるか昔。30年以上前に。結婚したい相手なのだと、夫がわたしを家に連れて行った日。奥座敷に舅と義姉がいた。結婚して東京にいた義姉がこの日、わざわざ実家に呼ばれていた。舅と義姉が奥座敷に並び、義姉がわたしに「古い家に嫁ぐこととは」と、なんだか説いてきた。舅は「跡取りの結婚式とは」と、とうとうと語った。姑はお茶を運び、台所にいた。

なんだこいつら。と思った。たかだかずっと何十年も一族が同じところに住んでただけじゃないか。と思った。偉そうに。だいたい義姉ってなんだ、と思った。母親の上にいて平気なことが馬鹿馬鹿しかった。義姉は大きな寺の「嫁」だった。

家に帰り、わたしは両親に「やめだ、やめだ、こんな結婚はわたしには無理だ」と言った。自分の意思表示を臆せずできる個性があり、集団においてそこそこ目立つ人生を送ってきたわたしは、両親にこう言った。
「こんなにわたし自身を無視されたのは、初めてだ」。

こうして結婚はやめたのだけれど。付き合うことをやめなかったことと、夫の意志が固かったことで、結局相手からの上から目線が軟化して、わたしはわたしのままで彼と結婚することになった。

義姉は、いわゆるおとなしめの優等生できたような人で、おまけにとても容姿が美しい。「おっとりしたおねえちゃん」ということになっているが、わたしに対してはなんというかこう、ちらりと上から目線を、わたしは感じているところはある。まあ(怖っ)的な発言を、さらっとされたこともある。

ただ、傷つくというよりは割とどうでもいい。目立つキャラをもって生きるということは、ぶっとい悪意に慣れているということでもある。ぶっちゃけ、このくらいはたいしたことはない。そして義姉は悪い人じゃない、むしろいい人のカテゴリーに入る。ただ、弟がかわいい姉なだけだと思う。

てな義姉が、わたしに「よろしくお願いします」と深く頭を下げた。よろしく頼むのは義妹のことだ。

義妹はずっと家にいる。20代の一時期働いたことはあるが、ずっと家にいる。ニートでも家事手伝いでもない、主婦だ。姑が元気なときからそう。未婚の専業主婦だ。友達と遊びに行くこともない。彼女の生活に家族以外の誰かが見えたこともない。

わたしとは仲がいい。わたしにとって義妹は「親族関係にある友達」に位置している。別に趣味が合うとかそういうことでもない。強いていえば好きなんだよ、それだけ。舅が扶養していた娘は、夫が扶養していく妹になることを、わたしはとっくに飲み込んでいる。「3人で老いる」ビジョンはとっくにできている。

ただ、義妹本人はそれをよしとしない。舅を送ったら「自分の力で生きていこう」という意志を持ってる。かなうかどうかは別として。そして、人に入ってほしくない心の領域がある。

要するに「妹をよろしくお願いします」「はい、わかりました」なんて簡単なことじゃないんだ。でもって、こうしたやりとりで「はい、わかりました」なんて言われたくない義妹、ってことがわたしの中にある。

難しいんだよ、マジで。だからわたしは「よろしくお願いします」と深々とわたしに頭を下げた義姉に対して、視線を避けてごにょごにょと思わず流してしまったんだ。

そうしたら義姉が「話し相手になってやってほしい」と言い直した。義妹の人生を預けることまで頼まないから、ってことなんだろうと思うんだけど。「話し相手になってやってほしい」ってのも、意味も気持ちもすごーくわかるんだけど。そこで「はい、わかりました」とか言われたくない、って人間がいるのは変わらないんだ。

まあ、そこに義妹はいなかったけど。そこにいないとか、関係ないんだ。

でも。わたしにちゃんと返事をしてもらえなかった義姉は、悲しかっただろうなと思う。そのことが、ずーっとずーっと、わたしの中に引っかかってるんだ。

だから。わかっていたんですよ、と。それを伝えた方がいいのかなあと。

しかしこうやって文章化をしてみたら。あ、たぶん伝えるの伝わるの無理だ、とか思っちゃった。元々あっち、基本わたし自体に好意的でもないんだし。

それに義妹と前に約束したし。わたしは義妹と他のきょうだいの間には入らないって。彼女の思うことの話を「友達として」聞き、聞くことにとどめ動かない。彼女の兄はわたしの夫で。でも、彼女が兄の話をするとき、わたしの耳は彼女の友達の耳になる。

義姉さん、ごめんなさい。あのときわたしは、あなたの態度に見合うリアクションが出来なかった。
でも、まあ、そんなとこでやっていこう。人生なんて、そこそこそんなもんだ。