リツエアクベバ

satomies’s diary

ちぃちゃんのおかあさん

猫が、よくない。
今日も病院に連れて行った。獣医師がわたしの顔を見て「よくないですか」と言ってから「厳しいかもな」と呟いた。

輸液をするといつも、ああ楽になったのだなと感じられる。でも今回は違う。よくないんだ、とわたしは医師に訴えた。
「前回、吐いてないということだったので吐き気どめの注射を入れてない。もしかしたムカムカして気持ち悪いのかもしれない」
「今日は吐き気どめを入れますか?」
お願いしますとわたしが答える。輸液が始まり待合室で待ち、そしてまた呼ばれる。

「お預かりすることもできますが」
「カラーをつけて、閉じ込めて、医療処置、給餌をこの子にとって知らない人にされる。この子にとっていつまで続くかわからない。特にこの子は外に出てる猫ですから、強いストレスになる」
「お預かりしている間に亡くなることも考えられます」。

医師がそう説明した。わたしもそう思っていたんだと言った。入院させますかと言われたら。うちにいない時に死ぬのはいやだと。

「では通院で」
「どういう処置をしていくか、飼い主さんがよく考えて」
「これだけしてとか、言っていいんですよ」
「飲み薬もやめたかったらやめてもいい」

ああ。末期の緩和の話なんだと。そう思ったら黙って聞いてた目ん玉があっという間に水びたしになった。
水びたしになったので困ったなと思ったので、笑顔で「がんばります」と言った。
いや、なにを?よくわからんけど。それから「助けてくださいね」と言った。
いや、なにを?死ぬルートのそばにいてねという意味だ。医師はそんなわたしに続けて言った。

「心配なときはいつでも来て」
「休診日の時は電話してくれたら、開けて待つ」

助手を務める奥様にごめんなさいと言った。なにを?いや泣いたから。
彼女は小さく微笑みながら「いいえ」と言った。それから「まだだいじょうぶ」と言った。
「腎不全の末期は、もっと視線がぼんやりしている。まだだいじょうぶ」。

それからわたしが言った。今日の髪に付けてるピンがきれい。きれいだなと思って見てたからそう言った。「子どもがほうりだしたのをもらったんです」とはにかんで奥様は答えた。

(チャンスだ)と思った。ずっと聞きたかった。ここのうちの子どもはたぶんうちと年齢が近い。小学校が一緒だ。娘が通った学区のこの小学校は、障害児学級との交流教育がとても盛んだった。絶対ここのうちの子どもも娘を知ってるはずだし。聞いてみたかった。
お子さん、うちと年齢が近いと思うんです。平成何年生まれですか?、と聞いてみた。

「ちぃちゃんと同じ学年ですよ」

なんと!
最初っからおれ、面割れしてた。
ここんちで、猫に声をかけていた「おかあさん」は「ちぃちゃんのおかあさん」だったのだ。
わたしは娘を。地域で育つ子どもにしたかった。なんだかしみじみじんわりした。

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猫は。今日は悪くない。吐き気どめ、グッジョブ!