リツエアクベバ

satomies’s diary

おはよう

週三回、パートに行ってるんですが。その行き道の途中で会う人がいる。いつも会うわけじゃない。何曜日に会うのかよくわからない。その人の姿が見えると、あああの人だと思う。姿が見えると見知った人だと思い出す。すれちがうと忘れてしまう。すれちがうのは住宅街の中にある、すこし広めの道路。右と左とそれぞれの車線を余裕で通れるような道。ただ、歩道に関しては引いてあったり消えてたりの頼りない白線がある程度。そんなありきたりな普通の道。
あっちからその人が来るのが見える。ああ、今日もあの人とすれちがうんだなと思う。その人は遠目からでもよくわかる。ゆっくりゆっくり、体を大きく左右に振りながら歩いてくる。表情が引きつったような怖い顔をして歩いてくる。よくわからないけれど、脳性まひあたりなんではないかと思う。男の人。年のころはわたしより若い。40代くらいかなあ。体の動きからは年齢よくわからないし、おっかない顔して歩いてくるのでしげしげと顔を見てるわけでもないのでよくわからない。おっかない顔して歩いてるだけで若いのかなあ。よくわからない。
わたしはその道の右側のはしっこを歩く。その人は向こう側から同じはしっこを歩いてくる。だから間近ですれ違う。大きく体をゆすりながらおっかない顔で歩いてくる人とどうやってすれ違う?あの人が見えたら反対側のはしっこに行く?それってすげー感じ悪くない?だからわたしはそのまままっすぐ歩く。じゃどうやってすれ違う?そのまま普通にすれ違おうとしたら、体がぼっこんぶつかるぜ?だって体大きくふって歩いてくるんだもの。
一番最初、どうやってすれ違ったかもう忘れた。たぶん、すれ違う瞬間にちょこっとよけたくらいだと思う。その次に会った時、その次にこの人が遠くから歩いてくるのが見えたときには、わたしは挨拶をすることにした。どうやって挨拶しよう、どのくらいで挨拶しよう。結局わたしはすれ違うときに、ちょっと横を向いて視線をそらしながら「おはようございます」って言ったんだ。
善人くさく元気よく「おはようございます」って、なんかいやじゃない?なんかくせーよな。だからちょっとぷいって横向く感じで言ったんだ。でもさ。自分、根本が愛嬌女なのよね。人と目が合うと口角上がっちゃうようなヤツ。だからなんとなく、なんかそういう懐っこいババアってのはたぶんバレたんだろうなと思う。次にすれ違った時、おっかない顔の端っこでふわって柔らかい顔をわたしに向けて、小さくぺこって頭をこくんってやってくれたんだ。あーおはようって言っていいんだって思って、わたしはそれからその人を見ると、当たり前のふつうの笑顔で「おはようございます」って言うようになったの。おっかない顔の端っこでふわってやわらかく、すごく小さな声で「おはようございます」って言ってくれるようになったの。
ある日ね、向こうからその人が来たときに、すれ違うときに大きく大きく動いたの。あれ?って思った。ああそうか、ってすぐわかった。きゃって思った。あのね。彼、わたしとすれ違うときに自分の体を車道側に出したんだよ。彼はナイトになって、おばちゃんは女の子にしてもらったよ。うふふ。