リツエアクベバ

satomies’s diary

娘の言語

ダウン症児の言語の発達は大きく差がある。立つ歩くまで同じ年頃のダウン症児を見てついつい発達を比べてドキドキすることは「親」にはよくあることだけれど、立つ歩くの発達差は言語に比べれば全くもってたいしたことは無い。合併症等の原因が無い場合はせいぜい2年かそこらだと思う。でも言語発達の差に関して言えば、もっともっと現実は厳しい。ダウン症児というカテゴリーではくくりきれないほど、その差は激しい。
娘の言語発達は非常に厳しい方だったと思う。しかしいつの間にかもそもそしゃべる。時々しかしゃべらないので、いつからどのくらい話せるようになったのかがよくわからない。
小学校の入学時に「言葉が無い」と言われた記憶はある。人から見れば「言葉が無い」という状況だったと思う。ただ指示はよく通り、家庭ではなにがしかは言っていたようにも思う。幼児期顕著だったのは、人に聞こえないところでかなりの数の曲を1人で歌っていたこと。確実に覚えた歌詞をはっきりと発音しながら。聞かれていることがわかるとぱたっと止めてしまっていたので、人に聞かせる気は全く無かった模様。
小学校に入学してから、いろいろな指示に対して「はい」と大きな声ではっきりと答える。「わかりました」などが増えていく。文字指導も始まり、文字で教えられる単語は口に出すようになる。
不明瞭な言葉を突然発することがある。聞き返すとチラ見をされて、「わからないならもう言わない」とばかりにきっぱりと口を閉ざす。聞き返し続けることは断固として拒否し、わからなかったことに対してあやまると表情は和らぐ。でも二度と同じ言葉を口にはしなかった。
養護学校の中学部に入学した時に、単語の数を調べるためにかなりの枚数の絵カードを提示。ほぼ全てに関して正確に答え、表出言語は少なくても理解の底は広いようだというようなことを言われる。言語による発達テストは惨敗状態でも、生活能力が高い。考えて行動していることはよくわかり、「しっかりしてる」という表現がしっくりきていたように思う。
高2になったばかりの時に、作業能力テストを受ける。この時、お名前は?学校名は?等の質問に対してはっきりと答えていき、「お願いします」と言った。正直驚いた。娘の口からこれらに関して言葉として出ていくのをわたしは初めて聞いた。言う必要の無い相手に言う必要の無いことは言わない。プライドの高い娘らしいことだと思った。
この子の言語の発達として特徴的なことを言えば。この子は「社会」で言葉を覚えてくる。家庭で覚えて社会に出していくのではなく、この子は「社会」で言葉を覚えてくる。だから。家庭の中でも非常に丁寧な言葉を使う。部屋に入るためにドアを開く時には「しつれいします」と言う。何か頼むときは「おねがいします」と言う。指示に対して理解した時は「わかりました」と答える。
学校を卒業して、この子の「言語」の様子がまた変わった。自分から話すことが増え、また聞き返すことを拒否しなくなった。何度でも何度でも、相手が理解するまでチャレンジしてくる。こちらが理解できなくても以前のような「チラ見」もせず、まっすぐに対峙してくる。
そんな今日このごろの中で、先日のこと。「おかあさん、しーしーも、おねがいします」。え?しーしーも? と聞き返す。「おかあさん、しーしーも、おねがいします」。はあ、しーしーも? 「おかあさん、おかいもの、おねがいします」「おかあさん、しーしーも、おねがいします」。情けないことにさっぱりわからない。しーしーも? 「はい、しーしーもです。おかあさん、おねがいします」。
深々と頭を下げました。「ごめんなさい、ちぃちゃん。おかあさんは『しーしーも』がわかりません」。「はい、わかりました」。なんかこう、負けた感覚でつらかったけれど、本人は納得してくれた。聞き返されることに対応する強さを身につけたんだなあと思った。
後日、スーパーにて。「おかあさん!」と明るい声。はいはい、なになに? 「おかあさん、しーしーも、おねがいします!」。ちぃちゃん、コレ?コレ?コレなの?しーしーも? 「おかあさん! しーしーも、お願いします!」。おう、わかった、買おうぜ、買って帰ろうぜ。
「しーしーも」ってのはね、CCレモン、だったよ。