リツエアクベバ

satomies’s diary

怖いよ

息子本人の挫折経験に関して、かーちゃんとして渡すべきものは全て渡した。息子は完全にスイッチが変わった。とても元気。塾の中で前期入試成功組が抜けて、ごそっと人数が減ったそうだ。そんなことを淡々と報告できる。部活の仲間たちの中の前期入試成功組のメンツの報告も、実に淡々としたものだった。
本人のモードがすっかり安心できるものになれば、今度はわたしの心理が落ちる。怖くて仕方がない。模試の成績は安全圏を出しているものの、この子の点数の取り方には元々非常にムラがある。どうしても出される問題によって当たりはずれが出てしまう。5教科の試験の中で、当日どこまで失敗を出さずにいられるか非常に心配。ここ数年間の過去問では充分合格の数字も出しているけれど、確実に不合格になるだろうという点数も出してる。
塾に前期失敗の報告を入れる。「後期入試突破の可能性は見えている」の返事。「見えている」「近づいている」、でも、塾でもこの子の点数のムラは承知の上。なんとかムラの「下」を出さずにいて欲しいと祈るような気持ちは多分塾側でも同じだろう。
塾で「数学を満点取れ」と言われたそうだ。確かに数学の満点は狙えるところに来てるだろう。しかし苦手の社会と国語の点数はなかなか上がらない。ここで失敗したら先は見えない。基本的な欠点もあり、苦手を克服している時間は無い。確かに得意な数学の満点を狙った方が道は早い。しかし数学の点数での2教科のカバーは、実はとても危険。神奈川の公立高校の入試問題は、数学の問題数が少なく一問のポイントが高い。たったひとつのケアレスでも命取りになる。
「志願変更を考えるか?」と本人に聞く。後期入試は一度だけ、志願後に志願先の変更ができる。熱烈志望校だけを見つめて準備してきた彼に、この質問自体が酷なことを承知の上で。
「なんでそんなことを聞くのか?」と、憤懣やるかたない顔で息子はわたしを見る。いやいや、ここでわたしはきちんと聞いておきたい。
真面目な顔でちょっと考えて、「結果がどうとかじゃない。ここで志願先を変えたらきっと一生後悔する」。
そうか、わかった。でははっきりとアンタの合格に対してのわたしの予測を教えてやろう。わたしが予測する合格の可能性は五分だよ。当日の学力試験での数値はその時一発の結果でしかない。アンタの努力とかは全く関係無い。アンタの点数のムラの可能性ってのがまだまだ存在している限り、当日それが出る可能性はすてきれない。当日問題用紙に取り組むまではそれはわからん。どういう問題が出てくるか、その可能性によってどうなるかわからん。前期入試の志願者の数は多かった。前期で失敗した子たちが後期に進み、そして「後期狙い組」も多分入ってくるだろう。単純に予想しても他校に比べて倍率は高い。僅差の勝負になることは予想される。当たるかはずれるか、そういうことをわたしは「五分五分」っていうのだと思うし、わたしはそう判断する。
今までの模試や予想問題に取り組んでいる中で、ヤバい数値がどんなに出ても、顔色ひとつ変えずに「ほう」とか言ってたかーちゃんが、初めて厳しい予測を彼に伝える。真面目な顔をして聞いて、そして「わかった」と答える。
「前期入試と違って、後期は自己採点で合否の予測は立てられる。自己採点の数値を出した時点で○○点台を切ったら覚悟しなさい。併願の私学に進むイメージを用意しておきなさい」。
ここで出した点数、それは、この子が本当によく頑張って自分のものにしてきた数値だった。たった半年前には、塾ではこの子が手が届くようになるとは思っていなかった数値だった。それでも当日の合否には、それは全く関係ないんだ。その日にその数値が出なければそれで終わりと、受験ってものはそういうもんだとこの子本人が身にしみてわかる現実だろう。
高校入試というものは、15歳で自分の希望を選択し向かっていき、そして現実というものをはっきりと認識する世界なんだと思う。たいした努力もここまでの頑張りも無く私学の中学にするっと入ったわたしは、ここまで厳しい現実というものを経験していないのだと思う。15歳は非常にラクに過ごしてしまった年齢だった。息子が向かい合う現実の前で、わたしは非常に弱虫だということをとても厳しく実感する。怖くて怖くてたまらない。覚悟を決める息子が、なんだか大きく見えてしまう。
父親である夫は「これだけ頑張ったんだから、もう既に結果がどうのということではないよ」と穏やかに言う。でも…、でも…、とわたしが言う。併願の私学は自宅からの交通の便が悪い。始業時刻も志望校より早い。もしも私学に進んだら、志望校よりも不便な道のりにあの子は日々どんなことを思うんだろう。息子が自室にいる夜に、そんなことをぐずぐずと夫に訴える。「そんなもの、すぐに慣れるさ」と、夫は静かにわたしの息子に対しての甘さを笑う。そうやって決戦の日は刻一刻と近づいていく。