リツエアクベバ

satomies’s diary

映画「静かな生活」

 ケーブルテレビの日本映画専門チャンネル伊丹十三特集のひとつ「静かな生活」を観る。映画としてはおもしろかったのだけれど、なんとも言えない怒りで、腹が立ってしょうがなかった。
 このなんとも言えない腹立ちってのを他に感じている人はいないのか、と思って、検索なんぞかけてみる。検索エンジンに入れたワードは「静かな生活 伊丹十三 障害 きょうだい」。そう、腹立ちのポイントはこの映画の主人公になる妹、つまりきょうだい児に関してのこと。
 大江健三郎がモデルであるパパはなんともすっとこどっこいで、オーストラリアに長期出張に行くということで、「パパがピンチなの」と、母親はついていってしまう。もう充分大きいとはいえ、三人の子どもたちを残して。
 「パパがピンチなの」ってあーた、そりゃアンタの男がピンチなのってことなんだろうが、その「ピンチなの」ってことで、自動的に障害をもつ兄の生活含め、家庭を守ることってのをゆだねられる「妹」に相談とかないのかい?みたいな。そのなんとも言えない「当然」って、「自然」ともいうような空気ってのはなんなんだ?と。
 てめーがすっとこどっこい、てめーの男が「ピンチなの」って、そりゃ個人ってのを守る守りたいのはいいけれど、そこでなんもかんも自動的に手渡される「妹」ってのはなんなんだよ、と。
 「妹」だって、少しは「聞いてねーよ」とか言えよ、あたしがなんもかんもするのか?とか言えよ。なんでなんもかんもそんな自然な顔して引き受けて、それでパトカーのサイレンや近所の無責任な噂話にビビったりするんだよ、と。
 映画冒頭で、性的反応を示す息子を見ながら「エネルギーの発散のために水泳でもやらせなきゃならんな」というパパ。言うだけだよこのオヤジ。プールに連れて行くのは妹だ。そしてこの、性的反応を示す兄に対して、性的犯罪を起こすんじゃないかと具体的にビビるのも妹だ。両親は「パパは仕事」「パパがピンチなの」で飛行機乗って行っちまったんだから。んじゃ、娘に起きるかもしれないピンチの可能性ってのはいいのかよ。
 家族全体で障害の受容、なんてことを言ってるけど、この映画だけを見る限り、一時期とはいえ障害の受容ってのを生活面で、ってのは全て妹の肩に背負わされるわけだ。そこでこの妹は文句も言わないし、泣き言さえ言わない。
 障害当事者のイーヨーが、美しい存在であるなんてユーザレビューは山ほどあるけど、そうなのか、本当にそうなのか、と思う。この泣き言言わずに毒を持たずに、真摯に自分に与えられたことを真面目にこなしていこうとする妹の方がずっと美しいや。
 美しいや、美しいけどさ、でもこの映画を見る限り、この妹にはそうならない自由ってのは与えられていない。真摯であることを要求されてきた生育歴だからこそ、という風に解釈もできるわけだ。いいのか、本当にそれでいいのか。
 ストーリー展開の中で、身内ともいえる人間関係の重要な相手が「彼に障害が無かったら」という仮定というフレーズをちょこっと使う場面。別に差別でも否定でもなんでもない、彼はユニークだねえ、という感じで、障害が無かったらどんな若者だっただろう、と。
 これに対して間髪入れずに妹は反論する、ウチの家族はそういう風には思わない、と。この手の話にこういう「間髪入れずに」ってタイミングでの反論ってのは、わたしはついつい親の刷り込みなんてのを思う。きょうだい児ってのは育ちながらきょうだいの障害に気づいていく。そのときにまあ折々に親になんか聞いたりするわけだ。そのときに答えたことってのを、刷り込みとして支えにしていったりするものだ、きょうだい児ってのは。
 でもなんで「障害が無かったら」ってのを禁句にしなきゃいけないんだ? 別に障害の否定でも嘆息でもなんでもなく、本当に単なる仮定でもそれは否定されなきゃいけないことなのか?
 いいじゃん別に。今持ってる個性ってのは、障害をもちながら生きてきたってことに由来する個性ってのはあるかもしれないが、そこに持って生まれた個性なんてことが関係しているのだったら、そこ、ちょこっと想像したりするなんてことも禁止なのか?と思う。いいじゃん別に。イコールで本人否定に間髪入れずにつながっていくととらえる方が不自然じゃないのか?
 っつ〜か、この「間髪入れずに」反論が出るってのは、親の刷り込みだよな、と思っちゃうし、その時点で親の縛りなんてのを思っちゃうんだよね、わたしは。
 そもそも家族だからって、そんなに絶対的なものなのか、障害を否定してはいけませんみたいなこと。いいじゃん別に。きょうだい児にだって、否定肯定迷路をたどる権利や自由を認めろよ。親だって否定肯定迷路をいっぱいたどるんだから。そのくせきょうだい児にはそれを認めないって、おかしいよ。
 こんなに物わかりのいいきょうだい児になんてなる必要は無いと思う。親を甘やかすなよ。こんなストーリーがまかり通っちゃうから、自分自身に刃を向けるきょうだい児ってのが生まれるんじゃないか、と思う。やあねえ、ホントイヤ、こういうの。

伊丹十三DVDコレクション 静かな生活