リツエアクベバ

satomies’s diary

今日は泣いてばかり

 実家の和室の祭壇には姑が眠る。家に帰りたがっていた姑。外は寒いのよとても、暖かくなってからね、と何度も繰り返し言っていたなあと思う。不思議なことに遺体が家に帰ってからはずっとぽかぽかと暖かい日が続く。
 朝から妙に気持ちがざわざわとし、変な緊張感でいっぱい。明日から儀式が始まる。体を焼いてしまうまでのカウントダウンが始まっている。
 朝からのざわざわは、失敗を招く。自分のマイナスになる失敗なら良かったのに、その隙は子どもが犠牲になる。6年生の姪を呼ぶ、「ごめんなさい、ごめんね、ごめんね」と涙が止まらない。家事というものを日常でもう長いことやってきているのに、些細な失敗。手洗い表示の服をがらがらと洗濯機で洗ってしまう。洗濯機で普通に洗ってしまったためか、洗濯にお湯を使ったからなのか、レーヨンの服が縮んでしまう。ああこの服はおとといは丁寧に洗ったはずだったのに、ふわっとかわいらしいパーカーだったのに、こんなに縮んでしまった。
 いいよ、と姪が答える、よくない、とわたしが泣く。夫が何事かと部屋に来てどうしたのかと聞く。なぜわたしは自分の気持ちの動揺というツケを子どもに回してしまったのかと後悔の思いで泣く。姪が泣く、姪がわたしを思って泣く。ああ、しっかりしなければ。午後、襟にファーが付いた真っ白のとびきり可愛い服を姪に買う。
 実家に行く、義妹の顔を見て涙が出る、わたしおかしいの、日常に誤魔化されていたような気がする状態がゆっくりと明日に向かって壊れていく。義妹がわたしの手を取って、そうだね、もう明日だね、と涙ぐむ。
 線香をあげようと祭壇に向かい、棺の窓をあけて姑の顔を見る。遺体の変色が始まっている、昨日までの顔じゃない。姑は体の変化でわたしに現実を教え、しっかりしなさいと無言で伝える。明日のわたしは「長男の嫁」だ。
 舅が席の順番をわたしに告げる。舅、長男、長男の嫁、義姉、義妹、義妹、義姉義妹の配偶者という順番なんだそうだ。長男の位置は高く、わたしもその横に並ぶのだそうだ。看病の中心になった義妹が何故5番目なのかと不思議に思い、そんな説明が遠くに聞こえる。ラーメン、カレー、焼きそば、唐揚げ、スパゲティ、コロッケ、チャーハン、ハンバーグ。非日常をつかの間の日常として暮らさなければならない子どもたちのために子どもの好きな献立ばかり並べ立てた食卓の準備も今日で終わる、明日からはばたばたの二日間が始まる。